第11章 白鷲の帝王と及川の秘密
「あらら~、王子様のお出ましか?」
『及川さん!?』
トイレの出口にいたのは及川さんだった
その笑顔は、初めて会った時のあの顔
ぶつかったお姉さんたちを見るあの怒ったような笑顔
「久しぶり、天童君。夜琉ちゃん返してもらっていいかな?」
「ん~、ダメ」
と言って天童さんはあたしを左腕の中に収めた
左側にいるあたしの顔に近づく天童さんの顔
「若利君がね、この子と結婚するってさ」
「そんなこと、俺たちがさせるわけないでしょ?」
「でも、そっちだってこの子のこと利用するために手元に置いてるんでしょ?」
「お前らと一緒にするな」
「おぉ~、怖い。じゃあ、こうしたらどぉ?」
という天童さんの言葉の後に耳元で聞こえたカチャという音
音の方に目をやると、そこには銀色に光る細いもの
「…そんなことしたら困るのそっちじゃないの?」
「若利君は厭わないって。顔が傷ついてても身体と血さえ手に入れば」
2人の話す内容を聞きながら、あたしは天童さんの腕の中で暴れた
すると天童さんが持っているものはあたしの頬にかすかに触れた。冷たいようなチクっとした痛み
「あぁ~、ごめん。切れちゃったね、顔」
あっ…傷、ついちゃった…
「いい夜琉、女の子の身体に傷をつけていいのは、本当に信じられる人。その人だったら傷つけられてもいいと思わない人に傷つけられたら、そいつの代わりに傷を付けちゃいなさい」
それが、母の教えだった