第8章 誘拐
「…。もしもし」
電話に出ると、うわっ、マジであいつのとこに繋がったっぽい
という声が聞こえた。
まず宮原ではない。完全に男の声だ。一瞬電話を切ってやろうかという考えが頭の中で浮かんだが、どうやら自分を知っている人のようなので、こらえる
「もしもし?日代だよなぁ、久しぶり、元気にしてたかぁ?」
「お前、誰だ」
そもそも名乗ってもらえないと誰かもわからない
「え、向坂だけど。覚えてねぇのかよ」
そう言われて思い出した。俺が現役だった頃、何かと張り合ってきた、暴走族のグループだ。
規模は小さかったのだが、暴走しすぎて事故を起こすわ、一般人に対して流血騒ぎ起こすわで、かなり迷惑だった。
確か1回やりあったが、ものの数分で片付いた覚えがある
「いや、よく覚えている。けどよ、俺はもう引退したんだ、今喧嘩売られても乗りゃしねぇよ。」
「それがもし、大事な人の身に危険がせまっていたとしても?」
そんなことできないよなぁ、お前が族やめた理由あんなんなのに、そんなわけねぇよな
そんな向坂の笑いを押さえるようにして言った言葉は無視した
「それは、どういうことだ」
「昨日見ちゃったんだな。お前がかわいい彼女とバイク二人乗りしてたとこ」
俺に彼女なんて出来たことが無かったが、何を言いたいのか一瞬で悟った
宮原のことじゃねえかよ
「一応言っておくが、俺に女は、いねぇよ」
「でもこのケータイその子のやつなんだよね。わざわざ電話帳に日代雅晴って名前で載ってたし」
つまりは宮原をさらったか、ケータイを奪ったかして今電話をしているということだ
「本当にそいつは俺の知り合いか?」
もしかすると人違いということもありうる
「あれ、信じらんない?でも今彼女気ぃ、失ってるから電話出れないしなぁ。そうだ、今から写真送る」
ぷつっと電話が切れる
「…日代。何かあった?」
祐希が俺の動揺しているのと、電話の様子で異変を感じたらしい
「向坂が、宮原を拉致ったってよ…」
ほどなくして、メールの着信音が鳴った