第39章 優しい手
「あのバカ達は、人が痛めつけられているのを見過ごすことができないんだよ。」
夏実さんはバカと言っているのに、目がとても優しく笑っている。
バカ達とは、林さんと日代君のことかな。
「自分もたいして強くないくせにね、傷だらけになってでもそいつらを助けようとするんだよね。そのせいで私はあのバカ達を手当てするのが日常になったのさ。」
「夏実さんは林さんを止めようとはしなかったんですか?」
やっぱり兄弟なら多少は心配するのではないのだろうか。
そう思ったら聞かずにはいられなかった。
「心配だし最初は止めようとしたさ。でもね、ああやってヘラヘラしていても頑固なやつだから自分の決めたことは意地でもやりとおしてしまう。」
バカで真っ直ぐで、お人好しなんだよ。
夏実さんの言葉に私は納得した。日代君からときどき感じるあの強い思い。誰かを守ろうと決めたら徹底して守り通そうとする行動力。誰も彼を止められはしない。
「でも止めることはできなくても、力になることはできる。それで私はあいつらの手当てを始めた。それに、やっぱり力を喧嘩は人を荒々しくさせるもんだからね、少しでも癒してやれないかと家に呼んで飯を食べさせたこともあったね。それがきっかけで私は看護を勉強しようと思った。」
夏実さんはにっと笑う。その笑顔には弟に対する深い愛が見てとれた。
「あのね、あたしは今の雅は昔よりだいぶ穏やかになったなって思うんだ。それは心春ちゃんのおかげかな?」
「えっと…。それはわからないですけど、日代君はいつもとっても優しいです。」
だって日代君の荒くれている姿なんて見たことがないから。私は戸惑いながらも思ったことを口にする。
「うーん、乱暴者って訳じゃ無いんだけど、昔はもう少し殺気だってたね。現役時代色々と厄介事に巻き込まれてたし。だから、困っているときはあいつの力になって欲しい。」
夏実さんの言葉に私は強く頷いた。