第39章 優しい手
「よーし、これで手当ては終了!次は心春ちゃんの番だねー。」
「は、はい。」
「悪いけど私の部屋で手当てしよー。こんなヤローの前で手当ては嫌だよねー」
にやっと少し悪人面で笑う夏実さんに、二人は少しムッとした顔になっていた。
「ヤローとはなんだ、ヤローとは」
「え?そのまんまの意味だけど?」
そう言って夏実さんは私の手をとる。
夏実さんの気遣いはありがたかった。
「じゃあそこ座って。」
夏実さんの部屋は、ゴチャゴチャとしていたけれど、全てが看護系の本で、どれくらい本気で看護について学んでいるかが伺えた。
私は夏実さんに促されてベッドに腰かける。
「とりあえずどっか殴られた覚えのある箇所ない?」
「鳩尾を気絶させられるときに殴られましたね。」
日代君の言う通り、さっきまでは感じなかったのに、今は少しズキズキする。
ちょっと失礼するよー、と夏実さんが服の裾を捲って眉を潜める。
目線を下ろして自分のお腹を見ると、青く鬱血していた。
「うん、見た目は酷いけど、病院行くほどではないかな。安心して、じきにこの青いのも消えるからね。」
と夏実さんは私を安心させるためか穏やかに話す。
そうして膝や腕のすり傷の手当てを始めた。
「あたしさ、こんな見た目でどうして看護師やろうと思ったと思う?」
夏実さんがにやっと笑う。
唐突な質問で私はかなり戸惑った。
「どうしてって…。」
正直に言うとよくわからない。
「ごめんごめん。意地悪な聞き方したね。あたしが看護師を志したのはあいつらがいたからだよ。」
夏実さんは少し目を伏せながらそう言った。