第39章 優しい手
「はーい、ちょっと沁みるけど我慢してよー。」
と夏実さんは日代君に容赦なく消毒薬をかける。
「…っ!」
ちょっとどころでは無かったようだ。日代君が顔を歪めるところなんて初めて見る。
思わず自分が痛い思いをしているわけでもないのに、自分の手を握りしめてしまい、自分の手に爪痕がついたことに気づく。
「相変わらず姉さんは容赦無いなぁ。俺の手当てがどんなもんになるか考えただけで恐い。」
「あ?お前なんて大したこと無いでしょ。バカは大怪我なんてしないって。」
「何そのバカは風邪をひかないみたいなノリ。なんか最近姉さん酷くない?」
ううっ、と林さんは泣く真似をする。
「何かごめんねー。こんなやつがred crashのリーダーだったなんて考えられないでしょ。私が現場に乗り込んだ方が早く解決したかなー。」
夏実さんが日代君の傷にガーゼを押し当てながら私の方をチラッと見る。
「いえ、林さんも充分強かったし、助かりました。」
「そうだよー。心春ちゃんなかなか勇者でねぇ。俺が来るまでなんとか食い止めようとしてたもんね。」
「えっ、なになに、心春ちゃんもしかして強いの。」
夏実さんが手を止めて、日代君はこちらを振り返ってこちらを見ている。
日代君の顔が見られなくて私はそっとうつむく。
「いえ、全然。でも何とかしなきゃって混乱してて。」
きっと私が鉄パイプを持って突入しようとしていた、なんてことを聞いたら日代君は絶対悲しそうな顔をすると思う。
頼むからこれ以上巻き込まれるなと言ってくるきもする。
私がしようとしていたことはかなり危険なことだ。
日代君に言えるはずが無い。