第36章 危機
「カハッ…!」
もろにみぞおちに拳を食らった日代君の体勢は大きく揺らぐ。このまま倒れてしまわないかと思ったが、なんとか踏みとどまった。
「俺が帰るためには、お前を倒すしかねぇのかよ。」
日代君は薄く笑う。
向坂はその言葉には何も返さず、そのまま殴りにかかった。
日代君はその拳をかわしたけれど、もう殴り返すほどの体力は残っていないようだった。
向坂の拳をひたすらかわしていく。
…。警察を呼ぶべきなのかな。
…いや、日代君が前に言っていたのだが、昔何度か警察に連れていかれたが、どんな事情を話しても、暴走族だからといって何も聞き入れてもらえなかったらしい。
誰かに助けを呼ぶ?でも私はケータイを持っていない。
どうしたものかと日代君のバックを持ち直したときハッとした。
この鞄の中には日代君のスマホが入っているはずだ。
私は日代君に心の中で詫びを入れ、鞄の中からスマホを取り出す。
しかし、彼のスマホはロックがかかっていて、操作は不可能だった。
普通は誰だってスマホにロックをかけるものだ。
でも、そう言えば緊急通報はロックがかかっていてもできたっけ。
私は緊急通報と表示されているところをタップする。
誰でもいい。とにかく覚えている電話番号に電話をして助けを求めよう。