第27章 打ち上げ花火
「どうかしたか?手、怪我でもしたのか。」
「な、なんでもないよ。」
私は自分の手をとっさに後ろに隠す。
「それにしてもえらい客の数だな。1つのもんを買うのでもこんなに時間がかかるなんて、祭りもただ楽しいわけではないな。」
「確かにね。でも、苦労して買ったものは、余計に美味しく感じられそうじゃない?」
「まぁ、そういうもんかもな。」
「それに、から揚げ買うより絶対楽だよ。」
私達はリンゴ飴の向かい側にあるから揚げの屋台の方に振り返る。
やはり、女性向けなお菓子の屋台ではないので、老若男女、さまざまな人が並んでいる。
「…。これは…ヤバイな。」
日代君は額ににじんだ汗を拭いながら苦笑いする。
夏の上に、人口密度が高く、揚げ物など火を使う店が多いので、やたらと暑く感じる。
日代君がこんなに汗をかいているのも、不思議ではなかった。
「あ、日代君。意外に早く買えそうだよ。」
前を見ると、人がだいぶん減っている。品物の作りおきが多いからかな。
「そうだな。」
そのあと、ようやく目当ての物が買えて、私達はなんだか大きな仕事を終えたような気になっていた。
「それ、うまいか。」
私がイチゴの飴を食べているのを見て、日代君が尋ねてくる。
ちなみに日代君は妹さんへのお土産の小さなリンゴ飴を片手で持っている。
思っていたように、なんだか日代君とはアンバランスだけど、妹さんへのものだと考えると自然と笑みがこぼれる。
「うん。ちょっとベタベタするけど、甘くて美味しいよ。」
「そうか。良かったな。」
「日代君はどっか行きたいところ無いの?」
「うーん…。」
そのとき、どこからかアナウンスが流れ始めた。
「20時より、花火を打ち上げます。花火をご覧になるかたは、観覧席を用意しておりますので、そこでのご観覧、よろしくお願い致します。」
スマホを取り出して確認すると…。今は…7時半だ。
「どうする、見に行くか。」
「うん、見たい。でも日代君の行きたいところは?」
「俺も実は花火が見たかったんだ。いつもすげえのは知ってたんだけどよ、いつも見てなかったからな。」
「じゃあ、行こう。」
私達は観覧席へと向かった。