君を俺だけのものにしたい【Mr.FULLSWING】
第9章 猿野の場合
観覧車が頂上にさしかかったことを告げるアナウンスが流れると。
トンッ
肩に衝撃を感じて左を向くと××の頭があった。
突然の××の甘えに俺の体が固まる。
「・・・あたしだって女の子なんだよ?」
か細い声に俺は「へ?」しか返せなかった。
「誕生日だから、初めてのキスだから・・・その・・・ムードとか?大切にしたいじゃん!?」
投げ槍な言葉に、とりあえず照れていることだけはひしひし伝わった。
「あたしだって観覧車のてっぺんでファーストキス、みたいな夢を見ちゃう女の子なんですー!」
「・・・え?」
「恥ずかしいんだからさっさと分かれ馬鹿!」
××は怒り心頭で窓の方を向いてしまった。
・・・分かれって言われてもだな。
ムード?ファーストキス?観覧車のてっぺん?
てっぺんでキスしたかったなら、さっきキスすりゃよかったじゃねーか。
俺には何が何だか分かんなかった。
窓の向こうの景色で、観覧車がどんどん高度を下げていっているのが分かった。
もうてっぺんでキスをする夢には間に合わないわけだ。
降りたら「やっぱり付き合うのはやめよう。」って言われるんだろうか。
そこまで追いつめられても俺にはいまいちよく分からない。
「・・・もう俺のこと嫌い?」
自分でも声が震えているのが分かった。
××はこっちを見ようともしない。
こりゃダメだったかな。
俺は甲子園地区予選で負けた時ぐらいに落胆した。