第8章 四日目の夜
「……ユメ?」
ドアの向こうから聞こえる、安心する声。
「トラン……クス」
ユメはゆっくりとその声に応える。
「大丈夫? その……大きな声が聞こえたから」
心配そうな声。
優しい彼のその声に、気持ちが大きく揺れる。
もしさっき、腕時計と一緒にこの世界から消えてしまっていたら、もう声を聞くこともなかった。
話すことも、名前を呼ばれることもなかった。
そして。
……この想いを伝えることも……。
ユメはゆっくりとドアへと向う。
取り付けられたボタンを押す。
ドアが開く。
そこには、確かにトランクスが居た。
「ユメ! どうしたの!?」
瞳の濡れたままのユメを見て驚くトランクス。
「トランクス……」
「ん?」
まるで子供にするようにユメの顔を優しく覗き込むトランクス。
――今日、トランクスと再会できたリィナちゃん。
同じ町に住んでいるなら、偶然でも逢えるのに……。
(……私は?)
今、確かにトランクスとココに居るのに……。
「私……」
ゆっくりと言葉を紡いでいくユメを、優しい瞳が見守っている。
その澄んだ青い瞳も、綺麗な紫の髪も……ユメが昔から大好きな、彼のもの。
その彼が今、確かに目の前に居るのに……。
もう逢えなくなるなんて……!
想いが、溢れて止まらなかった。
「私……トランクスと、離れたくないよぉ……!!」
吐き出した言葉と一緒に、ボロボロと零れ落ちる涙。
「ぇ……えっ!?」
顔を覆い、堰を切ったように泣き出したユメを前にしてトランクスはただ戸惑う。
少し顔が赤くなっているのは、ユメの今の言葉のせいだ。
『離れたくない』
ユメはそう言った。
まるで子供のように、しゃくりあげながら泣くユメ。
そんな彼女に、トランクスはゆっくりと、手を伸ばす。
ふわっ……
「!」
ふいに温かいものに包まれて、ユメは身体を強張らせた。
それはトランクスの体温。