第8章 四日目の夜
夜中。
ユメはまた昨夜と同じ夢を見ていた。
悲しむ皆の顔が次々と映る。
顔を伏せて泣いている母。それを支える父。
見ているのが辛くて、ユメは夢の中でぎゅぅっと目を瞑った。
「!」
目を覚ますユメ。
辺りは暗く、まだ朝ではないようだ。
「っはぁ……」
ユメは息を吐いて両手で顔を被う。
ドクドクという心臓の音が全身に響く。
なんで、また……。
ゆっくりと起き上がり、大きな窓から空を仰ぐ。
最初の夜綺麗に見えていた月は、雲に覆われてどこにあるのかわからなかった。
今、何時だろうかと、付けたままにしている腕時計に目を落とす。
この世界の時間に合わせた時計。
アナログなそれは2時過ぎを差していた。
しばらく時計から目を離さず、進んでいく秒針をただ見つめる。
「帰らなきゃ……いけない……?」
小さく呟くユメ。
帰る方法なんてわからない。
でも……。
その時だった。
ぐらりと、急に酷い眩暈に襲われた。
目にしている時計がブレる。
焦って目線を上げると、やはりゆらゆらと揺れる視界。
……そして、ユメはその中に、あるものを見てしまった。
それは、紛れもなく、見慣れ過ぎた部屋。
――自分の、“本当の部屋”。
「……っいや! まだ戻りたくない!!」
強く目を瞑りユメは叫んでいた。
――数秒後。
恐る恐る目を開けると、そこは殺風景な部屋だった。
視界も正常に戻っていた。
先ほどと同じ、静かな夜のままだ。
「っはぁ……っ」
それがわかって、ユメは深く息を吐きながらいつの間にか流れていた涙を拭う。
――今、私……一瞬、戻った……?
そして、ふと腕を見て愕然とする。
う……そ……。
腕時計が、消えていた。
ベッドの上にも、どこにも落ちていない。
――まさか、時計だけ……戻った……?
と、そのときだ。
トントンっというドアをノックする音にユメはビクリと身をすくませる。
「……ユメ?」
躊躇いがちに聞こえてきたのは、トランクスの心配そうな声だった。