第8章 四日目の夜
「私……」
何か、言わなきゃ……。
でも、何て……?
「ごめん」
そう言ったのはトランクス。
え……?
ユメは視線を落としたまま目を見開く。
「急にこんなこと言って。驚いたよね! ……答えは急がないから」
その声は明るい。
「ユメが家に帰るまでに、考えておいてくれると嬉しい」
ゆっくりと顔を上げると、トランクスの優しい笑顔があって、ユメは小さく「はい」と頷いた。
どうしよう……。
ユメは頭からシャワーを浴びながら、苦しい胸を押さえた。
ザーという水音が、ぼやけて遠く聞こえる。
ずっと、ずっと好きだったトランクスに、好きだと言われたのに、応えることができなかった。
理由はわかっている。
――ユメが家に帰ったあとも、会ってもらえますか?
そう言われた瞬間、夢から現実に引き戻された気がした。
……私はこの世界の人間じゃない……。
いつまでこの世界にいられるかわからない。
来たときと同じように、いつ、彼の前から突然消えてしまうかわからない。
そんな自分が、彼に想いを伝えていいはずがない。
そんな無責任なことできない。
……何より、自分が耐えられる自信がなかった。
「私……何でこの世界に来たの?」
か細いその声は水音にかき消された……。