第1章 一日目
最初は夢だと思った。
だって、それしか考えられなかった。
でも、ここまでリアルでクリアな夢なんてあるのだろうか。
ユメはさっきトランクスが握ってくれた手の感触を思い出して、ボっと赤くなる。
「……夢じゃなかったら、何なの? ……現実?」
ユメはそこで、ある物語を思い出した。
主人公が異世界に迷い込んでしまうという、最近よくあるストーリー。
「……まさか私、本の世界に……入っちゃったっていうの……?」
とても信じられないけれど、もしこれが夢じゃないのなら、そうとしか考えられない。
「私……これからどうなっちゃうわけ?」
その問いに応えてくれる人は、誰もいなかった……。
「はーい、お待たせ。お菓子こんなものしかなかったわ。コーヒーでよかった?」
そう言いながら、ブルマがパウンドケーキとコーヒーを運んできてくれた。
「あっ、はい! 大丈夫です。ありがとうございます」
ユメは顔を上げて答える。
カチャとテーブルにトレイを置くブルマ。コーヒーのこうばしい香りが鼻をくすぐる。
「あら? あの子は?」
ブルマはトランクスがいないことに気付いたらしい。
「あ、トランクスなら着替えに行くって言っていました」
「……着替えに?」
急に驚いた顔をするブルマ。
「はい。さっきの戦いで、服とか汚れてしまったからだと思いますけど……」
ユメは不思議そうに言う。なぜそんなに驚くのだろうか。
「フフ。あの子ったら……」
「?」
今度はいきなりクスクスと笑い始めたブルマに困惑する。
ブルマはユメの前の椅子に座った。
「ユメがいるからよ、きっと」
「え?」
どういう意味……?
ユメがキョトンとしていると、ブルマは楽しそうに言った。
「だって、今まで服が汚れるなんてことしょっちゅうだったけど、いちいちその度に着替えになんか行かなかったもの」
「そ、うなんですか?」
「そ。ユメがいるから格好つけたいのよ、あの子」
思わず顔が赤くなってしまう。