第5章 三日目
――どのくらいの時間そうしていただろう。
きっと数秒のことだったはず。
でもその数秒の間だけでも、彼を離したくなかった。
離してはいけないと……思った。
……その時、周りで少しだけ変化が起こっていた。
混乱の中、足を止めて二人を見つめる者たちがいた。
「……帰ろうか」
少しして、トランクスのくぐもった声が聞こえた。
そっと腕を緩めるとトランクスの笑顔がすぐ近くにあった。
ユメは、うんと小さく頷く。
そして二人は一緒に立ち上がった。
トランクスはユメに足跡の薄く残る袋を手渡し、笑顔で言った。
「どうせだからこのまま飛んで行っちゃおうか」
「うん」
恥ずかしいとか、そんな気持ちは全くなかった。
ユメも笑顔で頷いた。
空の上。
トランクスの腕の中はとても温かくて、とても安心して、
……ついさっきあったことが、夢のように、思えた。
玄関の前に、ブルマが立っていた。
ユメとトランクスは顔を見合わせて、ゆっくりと地面に降り立った。
「おかえり」
ブルマが微笑み言う。
「ただいま」
「ただいまです」
返事は二人ほぼ同時だった。
トランクスが気まずそうに、持っている工具の入った袋を差し出した。
「あ、あの……母さん、すいません。食料はちょっと、ダメにしちゃって……」
ブルマはそんな息子にそっと近付き、優しく抱きしめた。
「か、母さん?」
慌てたように声を上げるトランクス。
するとブルマは身体を離し、少し背伸びをしてポンポンと息子の頭を叩いた。
「ごくろうさま」
「……はい」
ユメはそんな二人をただ、見つめていた。
――カプセルコーポレーションとショッピングモールは目と鼻の先だ。
ブルマがあの騒ぎを気付かないはずがない。
……どんな気持ちで、ここで待っていたのだろう……。