第5章 三日目
喉が痛い。
こんなに声を出したのは、きっと生まれて初めてのこと。
でもそれよりももっと奥のほうが、ずっと痛くて……。
しかしその声すら騒乱に掻き消えてしまう。
……気に留める者は誰ひとりいない。
「おかしいのはアンタだ! あの恐ろしさを忘れちまったのか!?」
男が言う。
と、そのときユメの立っている付近から更なる悲鳴が上がった。
男もヒィと情けない声を上げてユメから離れていく。
視線を上げるユメ。
トランクスがこちらに向って飛んでくる。
「トランクス!!」
ユメは彼に向かって叫ぶ。
目の合ったトランクスは弱々しく、微笑んだ。
ズキリ……と、どうしようもないくらい胸が痛む。
いつの間にかユメの周りだけ、ぽっかりと人がいなくなっていた。
さっきの男ももういない。
ユメの前にトランクスはゆっくり降り立った。
「あ……」
……どうしよう。
なんて言ったらいいんだろう。
なんて言ってあげたらいいんだろう……?
……ワカラナイ。
……何も、出来ない……。
周りの悲鳴は一向に収まらない。
それどころかトランクスが地面に降り立ったことでその場は更に混乱を極めていた。
先に口を開いたのはトランクス。
「あーぁ、ダメになっちゃったかな」
体を屈めて地面に散乱してしまっていた食料や工具をひとつひとつ拾って袋に入れていく。
めちゃくちゃに潰され、食料はほとんど使い物になりそうになかった。
ユメは立ったままそんなトランクスの背中を見下ろしていた。
と、
「ごめん、ユメ」
ぐしゃぐしゃになってしまったユメの服を手に取り、トランクスが言った。
……顔は伏せたまま。
「結局オレのせいでこんなことになっちゃって……。まずいな、これ絶対母さんに怒られる」
――瞬間、勝手に体が動いていた。
彼の背中を、強く抱きしめた。
トランクスは最初身体を強張らせたが、後は何も言わなかった。
ユメはぎゅうっと目を瞑り、ただトランクスを強く、抱きしめた。