第5章 三日目
目の前で起こっていることが解らない。
理解……できない。
ユメの横を、悲鳴を上げながらたくさんの人々が通り過ぎていく。
のんびりと日向ぼっこを楽しむ家族がいた中庭が、今は騒然となっていた。
買ってもらった服を両手で抱きしめ、ただ呆然と立ち尽くすユメの肩に、外に逃げようとする人々が次々ぶつかっていく。
その波に流されそうになりながらユメはある一点を見つめていた。
ついさっきまで隣にいた彼……。
トランクスが今は離れた場所で少年を抱えて宙に浮いている。
遠くて、その表情はわからない。
ゆっくりと上昇していくトランクスを目で追うユメ。
そのまま屋上に降り立ったトランクスは母親の前に少年を下ろした。
そして、母親が少年を抱きしめるのが見えた。
普通ならば感動的なそのシーンを見る者はいない。
未だ悲鳴は鳴り止まない。
耳が痛くなるほどのその声が、ユメにはなぜかすごく遠く聞こえていた。
その時、いきなり強い力で腕を掴まれた。
服の入った袋が腕をすり抜け足元に落ちる。
「!」
「アンタ! 何ぼーっとしてる!? 早く逃げるんだ!!」
必死の形相で言ってくるのは初老の男性。
すごい力で後方に引っ張られる。
……落ちてしまった袋が容赦なく人に踏まれていくのを、ただ見届けることしかできなくて。
「――やだっ! 離して!!」
ユメはその手を振り払う。
この人は何を言ってるの?
何で逃げる必要があるの?
わからない……!!
「何言ってるんだ!?」
男が驚いたようにユメを見る。
「早く逃げないと、アンタも娘のように殺されちまう!!」
恐怖と、怒りと、悲しみが混じった表情で叫ぶ初老の男性。
……この人はきっと人造人間に娘を殺されたんだ。
でも、違う。
トランクスは、人造人間じゃない!
「トランクスはそんなことしない!!」
ユメは大声で叫ぶ。
「今見たでしょ!? トランクスは男の子を助けただけだよ!」
ありったけの声。
「おかしいよ! 何でみんな逃げるの!?」