第1章 一日目
その笑顔はユメの一瞬暗くなった気分を一掃してくれた。
……そうだ。ここにはトランクスがいる。
彼がこうやって近くにいてくれたら、何も不安はない……。
……トランクスの近くに居られるのなら……。
ユメはこのとき、ある決断をした。
「トランクス、あとでユメをちゃんと家まで送り届けてあげなさいよ」
「はい。そのつもりです。……そうだ、ユメの家ってこの近くですか?」
トランクスが訊いたそのとき、ユメは勢いよく椅子から立ち上がった。
「あのっ! ……実は、お願いがあります!」
大声で言ったユメを、二人が驚いた顏で見ている。
「少しの間でいいんです! この家にいさせてもらえませんか? ……お願いします!!」
そしてユメは深く頭を下げた。
「掃除でも洗濯でも、何でもします! だから……」
「ちょ、ちょっと待って」
ブルマが頭を下げたまま続けるユメを止めた。
「うちはかまわないんだけどね、ユメの家は大丈夫なの? ちゃんと連絡しないと……」
トランクスも心配そうにユメを見上げている。
それに気が付いて、少しだけ躊躇した。でも……。
「……実は私、家出してきたんです」
「え?」
驚く二人。
ユメはここでやっと顔を上げた。
「……最近、お母さんと喧嘩ばっかりで。うちにいるのが嫌になったんです」
これは本当のことだった。
でも現実に家出をするまでの勇気はなかった。
家にいるときは部屋に閉じこもっていることが多かった。
大抵そういう時は、ドラゴンボールを筆頭にいろいろな本を読みふけって過ごした。
そして今、どういう理由かユメはここにいる。
現実かどうかも定かではない世界。
でも、ここではこの場所が一番安心できるから……。
「お願いします。少しの間だけ、ここにいさせてください」
もう一度、ユメは深く頭を下げた。