第9章 波多野 ルーム
~ 波多野side ~
時「 俺 ... 、まだ先生といたい ... 」
患者さんが退院するのは 、医者として喜ばしいこと 。
時多さんが元気になって この病院を1日でも早く退院できるのは 、医者の俺は喜ばなきゃいけないはずなのに ... 。
時多さんの言葉に 、不覚にも同感してしまった 。
「 ふふ 、もう戻ってきちゃダメですからね ? 」
そう言い残し 、俺は病室を後にした 。
自分のデスクに戻ってからも 、頭の中は 時多さんの言葉がぐるぐる回っている 。
あんな言い方 ひどかったかな ...
でも 、患者さんに 、しかも男の人に 、恋愛感情なんて持っちゃダメだ ...
もう ... 行かない 。
そう決めて 、自分の仕事に戻った 。
時多さんの退院前日の夜 。
行かないと 、会わないと決めたはずなのに 、気付けば時多さんの病室の前に立っていた 。
でも ... もう会えないかもしれない ...
そう思ってしまい 、病室の扉に手を掛けた 。
四人部屋だけど 、この部屋には時多さんしかいない 。
1番奥 、明かりが漏れているあのベッドに 、時多さんがいる 。
「 ... 時多さん ... 」
時「 ... 波多野先生 ? 」
カーテン越しに聴こえる 、ずっと聴きたかった声 。
そっとカーテンを開けると 、ずっと見たかった顔 。
「 いよいよ 明日ですね ... 」
時「 えぇ ... 、わざわざそれを ... ? 」
「 あ 、いや 、たまたま通りかかって ... 」
なんて 見え見えな嘘をつく 。
「 えと ... 、じゃあ 、明日気を付けて帰って下さいね 。退院 おめでとうございます 」
もう会えないと思うだけで 、胸の奥がキュッと締め付けられ 、今にも涙が零れてしまいそうだった 。
時「 ... やだ ... 、嫌です ... 」
そう言って 立ち去ろうとした俺の白衣をギュッと掴む 。
時「 俺 ... まだ 、具合悪いですよ ... 。先生のせいで ... 、熱が出ました ... 」
なんだか ほっとけない気持ちになり 、また近くの椅子に腰を下ろしてしまった 。