第3章 Trick or Treat(降谷零)
今日はハロウィンだ。
いつも好きって言ってるとはいえ、あちらが私に何か用意しているはずはないと知っていながらも声をかけてしまうのはやっぱり大好きだから。
私の初恋の人ーー降谷零さん。
なぜ告白したのかを同期に聞かれたからそう答えた。本当の事。
公安部に配属されてからの一目惚れだと皆は思ってる様だけど、そうじゃない。
私たちの出会いはもっともっと前だった。
降谷さんは覚えていないだろうけど、私はその時小学生だったーー
「ねえねえ、学校帰り一緒に遊ぼうよー!」
「いいね!あ、じゃあちゃんのお家行きたい~」
「うん!おいでよ!!」
他愛もない会話をしながら友達と一緒に下校していた時だった。
目の前に3歳くらいの男の子と母親が通り過ぎたのだ。
「ママー、ボールであそびたいー!」
「公園いってからね~」
視界に入っていた親子。その子どものボールがいきなり手から離れ転がってしまったのだ。
「あっまって!」
子どもが道路にいきなり飛び出しボールを追いかけるとそこは……
ブーーーー!
トラックが近づいていた。
「危ない!!!!」
小学生ながらに目の前で起きる危ない出来事にとっさに身体が動いた。周りはもちろん自分でも驚いた事を覚えてる。
それでも全然間に合わずトラックと子どもを両方視界に捉えた瞬間ー
一転して、私の視界はグレーに染まった。
いや、グレーのスーツを着た男性の胸元に顔が埋まっていたと言うべきか。
どこにいたのか分からないが颯爽と私たち2人を引っ張りあげ、見事トラックから守ってくれた彼をヒーローだと思った。小学生ながらに私はこの瞬間、恋をしていた。
「何をしているんだ君たちは……!いきなり車道に行くなんて危ないだろう!俺が居なかったらどうなっていたか……!」
見ず知らずの私たちにこんなに焦って本気で怒ってくれている。
「ごめんなさあぁぁいぃぃ」
「……ごめんなさい」
その気迫に男の子は泣きじゃくってしまっていた。
その様子を見た彼はハッとし、なだめるように男の子の頭を撫でながら「怖かったよな。次からは気をつけるんだぞ」と微笑んだ。
そして私にも「君がこの子を守ろうとしていたのは見ていたよ。ありがとう。」とお礼を言ってきた。