第2章 素敵な帰り道(安室透)
「だから送っていくと言ったんです」
「ぐぁっ………………!!」
聞き覚えがある声と先程私の前にいた男の苦しむ声が聞こえた。恐る恐る上を見上げると、そこに立っていたのは急いでやってきたのか汗を流して息を切らす、大好きな人。
スラッとした長い足、そのズボンに血痕が少しついているところを見ると、恐らく男に回し蹴りでもしたのだろう……
その証拠に男は口から血を流して倒れている。
「全く君は…………もっと自分に危機感を持ってください」
手を差し伸べて少し怒った顔で安室が言う。
僕がもう少し来るのが遅かったら……?
そう思うとゾッとする。
「ご……ごめんなさい…………」
差し伸べられた手を握るが、いかんせん腰が抜けてしまったのだ。自分の力で立つことが出来ない。
「……どうしました?もしや……腰が抜けてしまいましたか?」
うっ…………言い当てられた…………
「……お恥ずかしながら…………」
「そうですか。それならば仕方ないですね」
そう言ってひょいっと抱き抱えられた。
ん……?てっきりおんぶか何かかと思ったがこれは……
「え、ちょっ………………」
「さあ行きましょうか、僕のシンデレラ」
何を言ってるんだこの人は!?!?
まさかのお姫様だっこである。
女子からしたら1度は夢に見るシチュエーションだし、相手は大好きな自分の王子様。
だかしかしそれを実際やるというのはまた別物だ。
「やだやだ恥ずかしい!!!おろしてください安室さん!!」
じたばたと暴れるにも全く動じない安室。
さすがに若く見えるが29の男、力強い……
「何が恥ずかしいんですか?腰が抜けてへたりこんでしまう先程の姿よりよっぽどいいですよ」
ああもう本当にこの人は……!
最早こうなったら私には止められない。お姫様だっこで大人しく運んで頂こう……
私が大人しくなった事に気をよくしたのか、安室は他にも注文をつけ始める。
「落ちると危ないんで、しっかり腕を回して下さいね?」
そう言って安室さん自身の手にも力が入り、私たちの身体は益々密着する。
心臓の音、聞こえてないかな……?
バクバクとうるさい心臓に自分でも驚きながら、安室さんに回す手にいっそう力を込める。
ここまで来たらヤケだ……今の内に思う存分安室さんにくっついてしまえ…………