第3章 試験前に…… 壱
「で、試験の開始日時なんだけど。調べによると今日の19時頃、取引が行われるそうだから。その時でいいかな?」
「はい。19時ですね」
壁に掛かった時計を見ると今は16時になる少し前。
「結構時間がありますね…」
「でしたら、横浜観光をしませんか?ひなたさん」
「えっ」
ナオミさんは私の手を取ると、にこりと微笑んだ。
「私、丁度貴女の様な年の近い方と遊びたかったんですの! 新しく出来たお店もありますし、きっと楽しいと思いますわ」
「ナオミ! ひなたちゃん困ッてるだろ」
楽しそうにしているナオミさんを見て、圧倒された私に助け舟を出す様に谷崎さんがナオミさんの話を制止した。
「何よ、兄様。時間を無駄にするよりいいでしょ?」
「……兄様?」
思わずぽかん。ぱちぱちと目を瞬かせる。
(恋人じゃなくて……兄妹!?)
そんな私を見兼ねたのか谷崎さんが説明してくれた。
「あぁ、ナオミはボクの血の繋がった妹だよ」
「すみません、疑う気は無いんですが……その、兄妹にしては随分と距離が近い様な……」
「いいえ、ちゃんと血の繋がった兄妹ですのよ」
ナオミさんがうっとりとした顔で、谷崎さんの服の裾から手を入れ、脇腹を撫で上げる。
「ナッ、ナオミ、やめてよひなたちゃんの前で……」
谷崎さんの動きが固まる。
気が付けば私は、二人の妖艶な雰囲気にあてられ顔が火照ってしまっていた。
「あのっ、横浜を案内して下さるのは嬉しいんですが……お二人のお邪魔じゃないでしょうか……」
兄妹、と云われてもやはりこの二人の雰囲気からして……何だか気が引ける。
「邪魔なんて事ありませんわ! 太宰さん、いいですわよね?」
「うん、行って来なよ。谷崎君、後宜しくね」
「はい、分かりました」
「では行きましょう、ひなたさん!」
ナオミさんに手を引かれる。
まだ入社前__試験すら受けてない__のに、こんなに仲良くなって良いのだろうか。
(でも…何だかわくわくする……!)
試験の不安はあったけれど、不思議と心は踊っていた。