第9章 九話
美樹の笑顔を見て、もう別れたほうが良いんじゃないかという思いがよぎった。
それは罪悪感からではない。罪悪感など全然ないし…。
別れるという考えがよぎるのは、紛れもなく麗香さんが原因だった。
美樹に飽きたわけじゃない。いつ別れようとどうでもいいとは思っていたが…。
でも今の自分はもう別れたいという気持ちがある。
麗香さんと散々交わった今、美樹では満足できないだろう。
麗香さんと交わったこと、麗香さんに言われたことが頭から離れない。
俺が今求めているのは麗香さんなのかもしれない。
そう思うと別れたほうが良い。
「…遥人くん、今日なんかずっとボーッとしてるよね…。」
心配そうにそう零す美樹。
…別れるならなるべく早く言ったほうがいい。
俺は放課後、美樹が部活終わって会う時に別れを告げることに決めた。
「…遥人ー♪」
放課後、俺しかいない教室に入ってきた女子。…一ノ瀬だ。どこか機嫌が良さそう。
美樹が部活終わるまで暇だからなんとなく勉強していた。
「…何だ?」
一ノ瀬は後ろから抱きついてきた。
…カップルみたいだな。
「…今日あたしの家に来ない?」
耳元で囁くように誘ってくる。
「…美樹との用事がある。」
すると俺から離れて一ノ瀬は前の席に座った。
そして鞄からノートを取り出す。
「…何だ…?」
「…あたしも勉強する。教えて。」
「……は?」
「…だって遥人と居たいんだもん。少しくらい良いでしょ?」
悪戯っぽく笑みを浮かべて見つめてくる。
俺はため息ついた。
そして暫くはお互いに何も発することもなく黙々と勉強していたが、ふいに一ノ瀬が顔を上げて見つめてきた。
「……遥人はさ…どこに行くの?卒業したら…。」
「……まだ決めてない。」
「…まだ決めてないの?……因みにあたしは県外の大学に行くつもり。」
…とくに興味もないので目線は教科書に向けて答える。
進路を聞いて何になるんだろう。…どうでもいいのに。
「……私達、もうすぐお別れだね……。」
その言葉が寂しげに聞こえて思わず顔を上げて一ノ瀬を見た。