Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第36章 ★私の彼氏は狼君。《京谷 賢太郎》
モソモソと動く気配がして、重たいまぶたを持ち上げた。目の前には柔らかな布の感触があって、手を添えると動いてるのが分かる。それでようやく、賢太郎の腕の中で眠っていたのだと気付いた。
肌寒くないなと思ったら、ご丁寧に賢太郎のTシャツが被せられていた。まぁ胸元はすーすーするんだけどね。
「……海宙、起きてるか?」
不意に耳元で聞こえた声に、びっくり。あえて何も言わないでいると、賢太郎がおもむろに話し出した。
「俺、いつも海宙のこと考えねェで行動してるし。ごめんな…」
そんなの、今更じゃない。賢太郎が頭より動くのが先なのは今に始まったことじゃないし、自分勝手でワガママなのだって。
「たまに、思う。もし海宙がいなくなったらって。そしたら俺、きっと今よりもっと悪いヤツになんだろうって」
賢太郎はほぅっとため息。
「怖ェんだよ。海宙がいなくなんの」
震える声が、鼓膜に響いた。賢太郎の腕が、自分の胸に私の頭を押し付ける。トクンという心音に、私は胸がキュッと切なくなる。
賢太郎の口とか態度が悪い理由。それは、人を信じて、裏切られるのが怖いからだ。いつか裏切って人を傷付けないか怖いからだ。
賢太郎の外身はすぐに噛み付く狼のようでも、内面は繊細。どちらかというと草食動物だ。
『大丈夫。私は、どこにも行かないよ』
「っ、海宙、起きて…!?」
『ごめんね。全部、聞いちゃった』
「てンめェ…」
明らかに怒ってるのが分かる賢太郎に、ギュッと抱き付く。賢太郎の不安が、迷いが、なくなればいい、そう思って。
『私は知ってる、賢太郎のこと、たくさん』
木から降りれない猫を助けたこと、道端の空きカンを拾ったこと、バレーから離れてても、ちゃんと練習してたこと。
『だからね。怖がらないで。私はちゃんと、ここに…賢太郎の隣にいるよ』
「…ずっと?」
『賢太郎が、望むのなら』
「そっか…なら、いいや……」
そう呟くと、賢太郎は目を閉じた。震えも止まっているし、もう、大丈夫。
『おやすみ、賢太郎…』
どこか不安定な彼。だからこそ、私は支えてあげたいって思ったんだ。いつか、賢太郎がたくさんの人と一緒に笑えますように。心からそう願い、もう一度目を閉じた。
END.