Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第36章 ★私の彼氏は狼君。《京谷 賢太郎》
帰り道。賢太郎はいつもより口数が少なかった。元々喋る方じゃないけど、今日は特に。
『…賢太郎、まだ怒ってる?』
「別に」
とは言いつつも、口はへの字だし、歩くスピードも速い。あれは、及川を警戒してなかった私が悪かったと思う、確実に。でも賢太郎がここまで拗ねるのは珍しい。
『けんたろーくん、手ぇ繋ぎたいな~?』
「…好きにしろ」
普段なら私は言わないセリフ。それに機嫌が良くなったのか、賢太郎の左手を取ると私に合わせてゆっくり歩いてくれた。
『賢太郎の手、あったかいね』
「そっちも、だろ」
『ふふ、そうかな?』
「今日、俺の家来んだろ」
『うん、そうする。ママには外泊とってあるからさ、大丈夫だよ』
賢太郎と一緒に帰る日、週に一度の月曜日はお泊まりするのが定番だ。うちのママはその辺に理解のある人で、即決でOK。賢太郎のお母さんも私に良くしてくれる。
『今日はちゃんと宿題やろうね~』
「……ッチ」
『あ、舌打ち。じゃあエッチしないもん』
「…すぐ終わらす」
『くふ、了解』
まったくもう、ひねくれてんだか素直なんだか。繋いだ右手が、彼の体温を伝える。秋の初めの涼やかな風が、火照った頬にはちょうど良かった。
『おじゃましまーす』
「ただいま」
「あら、海宙ちゃんいらっしゃい」
今や勝手知ったる京谷家。その玄関で賢太郎のお母さんが出迎えてくれた。
『こんにちは。今日はお世話になります』
「いいのよぉ。海宙ちゃんは可愛いからうちの子に欲しいくらいだわぁ」
ふふ、と笑う賢太郎のお母さんは、まだ若く見える。そのお母さんに賢太郎は、黙っとけババァと吐き捨てると、スタスタと自室に向かってしまった。
「ごめんね、あんな子で」
『とんでもないです!賢太郎はすごくいい子ですもん。口はああですけど優しいですし』
「ふふ、そう言ってもらえる子がいてたすかるわぁ。あ、これからお父さんの会社行って、それから飲み会なの。帰りは日付が変わってからだわ。賢太郎のこと、お願いね」
『はい、お願いされました』
そう返すと、賢太郎のお母さんは私の頭をぽんと撫で、足取り軽く家を出ていった。それを見送って、待ちわびているであろう賢太郎の元へと急ぐのだった。
『怒ってるかなぁ…』
少しの不安と、ちょっぴりの期待を抱えて。