Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第34章 迷子の恋心《白布 賢二郎》
ビックリしすぎて言葉が出ず、口を金魚みたいにパクパクさせる私に瀬見は続けた。
「ずっと見てたんだ、蒼井のこと。だからさっきのも、なんか怪しいなって」
『さっきの?』
「右手。あれ、白布だろ?」
ギクッとして肩が跳ねる。それに気付くと瀬見はあいつ…と眉間を押さえた。
「蒼井も白布も分かりやすいから。どっちも体勢が不自然だったし」
『ば、バレてたんだ…』
「まぁ、お陰で告白する気になったけど」
『?』
「躊躇ってたら白布に盗られると思って」
そう言って、カッコ悪ぃ…と頭を掻く瀬見が少しかわいくて、ふふっと笑う。なんで笑うんだよ、と小突かれる。
『ありがとう、すっごく嬉しい』
「じゃあ、付き合ってくれる?」
もちろん!そう言ったハズなのに、開いた口から言葉は出てこなかった。そして唐突に脳裏に浮かぶのは、生意気な後輩の姿。
足を引っかけてきたり、膝カックンしたり、ポーチを届かない高い所に置いたり。もう絶対、絶対嫌いなのに。なのに…
どうして、白布が出てくるの?
私はこんなに瀬見が好きだったのに?
好き―――だったのに?
なんで、過去形なの?
なんで、白布が頭から出ていかないの?
なんで―――白布の笑顔が浮かんでくるの?
「蒼井…?」
『……ごめん、瀬見』
「え?」
キョトンとする瀬見がいる。目の前に、ずっと想っていた人が"好きだった"人がいる。
『本当にごめん…私、白布g…』
「あー、知ってるっつの!」
私が言い終わる前に、瀬見が和の頭をわしゃわしゃと撫でる。え、知ってる?何を?
「お前、俺と白布とで態度違いすぎんだろ!」
『え、うそ!?』
「マジで。俺といる時はなんかよそよそしいのにさぁ、白布といると楽しそうだし」
そう、だったんだ。そう見えてたんだ。
「さっきの告白もウソ」
『どういうこと?』
「そうでもしないと蒼井気付かないだろ」
『そっか…』
まだ頭が混乱してて分かんない。でも、1つだけ確かなこと。
それは、私が、白布を好きなこと。
『ごめん瀬見っ、ありがと!』
瀬見の顔も見ずに駆け出す。うろ覚えで向かう先は、牛島の部屋。後ろから聞こえた"上手くやれよ"という声が、背中を押してくれた。