Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第34章 迷子の恋心《白布 賢二郎》
カリカリとシャーペンが紙を走る。んーとここは受動態でこっちが後置修飾だから…あぁもう分かんなくなってきた…
「先輩、どうかしました?」
『えと、ここんとこ意味不明。なんでIt'sがあるのに動詞が出てるの?』
白布に訊くのもどうかと思ったけど、しばらく問題を読んで、それから白布は言った。
「主語がこっちなんですよ。ほら、thatで節ができてるから、動詞が複数なんです」
『おぉ、そっか!じゃあこっちは?』
「こっちも同じです。ここがこうで…」
白布の教えかたは、本当に後輩かと疑いたくなるくらい丁寧で分かりやすかった。他にも分からないところがあり、いくつか教えてもらう。そしてふと、床に突いている右手に違和感を感じた。
『…っ、白布?』
「はい?どうしました?」
『っううん、続けてもらえる?』
「…はい。で、この熟語がこれを指して…」
やっぱり、気のせいじゃない。白布の左手が私の右手に重なってる。何も言わないでいると、指と指を絡めるように握ってくる。え、ちょっと、白布…!?
『あの、白布…っ』
「先輩、顔がなんか赤いですけど」
『あ、あはは、ちょっと暑くて…』
「ふぅん…」
素っ気なく返す白布。だがその口元は楽しそうに弛く弧を描いている。うっわこいつめ、確信犯じゃん!可愛げないなぁ…
手を離そうとするも、ガッチリ握られていて放せそうにない。しばらくそのままでいると、向かい側の瀬見が呼んできた。
「なぁ蒼井、和訳ってどうすんの?」
『あ、そこはねぇ…』
立ち上がろうとして、立てない。ちらりと隣の白布を見ると、さっきより強く手を握ってくる。ちょ、動けないんですけど。仕方無く左手を伸ばして説明する。
『単語いっこずつの意味かんがえたら分かりやすいと思うよ。ここは主語、ここが動詞であとは目的語になるから…』
「蒼井」
『ん?』
「右手なしたの?」
『っ!』
しまった、バレた。どうしよう、白布とお手々繋いでます、テヘ♪なんて言えないし…そう思って黙っていると、白布が苦笑しながら言った。
「ずっと右手突いてるから痺れたんでしょ」
『っ、そう!動かすとピリピリして…』
「あぁ、そうか。なんかゴメンな」
瀬見が謝る必要ないのに。私は困ったように笑い、それからフリーになった左手を使い教えてあげた。