Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第34章 迷子の恋心《白布 賢二郎》
2階に上って右手、廊下をいくつか曲がった先に牛嶋の部屋はあった。何畳ですかと訊きたくなるような広いスペースには、トレーニング器具と必要最低限の家具。
「ワォ、若利クンらしいね~」
『きれいだねぇ…君本当に男子高校生?』
机の上も棚もピシーッときれい。以前遊びに行った天童の部屋とは、比べ物にならない。
「とりあえずテーブルを出すか」
牛島が何処から取り出したテーブルに座る。当たり前のように隣には白布が座り、反対には目がキラッキラの五色。向かい側には牛島と瀬見と天童が座った。
ちなみに、諸事情により今回の勉強会に山形と大平は参加しない。いてほしかったのに…
「じゃ、始めるよーん!」
うきうきと天童が言う。仕方無くリュックから英語のワークを取り出し、シャーペンを握る。と、すぐに左肩をつつかれる。
「先輩っ、円周角の定理ってなんですか!」
『五色、それ中学でやったよ…』
ゲーン、とショックを受ける五色。それ、中3の秋頃にやってるよね、うん。
「全然分かんないです…」
しゅん、と落ち込む五色。苦笑しながらコンパスでルーズリーフに円を描く。
『理屈さえ分かれば簡単だよ。まずこうして円を描いて、適当にAとBをおいて…』
飲み込みは速いのか、一度の説明で五色は理解できたようだった。こうすると自分の復習にもなるしいいかも。さて、英語…と思ったら、今度は右肩をつんつん。
「あの、これってどういう反応式ですか?」
『白布…』
化学の教科書をトンと叩くのは、白布。初めは少し疑ったが、本当に分からないらしく、形の良い眉が歪んでいる。
『えっと、まず塩化バリウムが電離するでしょ。そしたらこの水素イオンが…』
ノートに化学式とイオンのモデルを書く。頭の中に反応式やら図が流れるように浮かび、それを文字にして伝える。
『っとこんな感じ。だからここで中和して塩ができて、結果としてこれが残るってこと』
「………」
『あの、白布?』
「あぁ、すいません。すごく、分かりやすかったです。ありがとうございます」
律儀にお礼を言う白布。今日は珍しく大人しいなぁと思い、それから今度こそワークに取り組む。だから、白布がほくそ笑んでるのなんて知る由もなかった。