Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第34章 迷子の恋心《白布 賢二郎》
当たった何か、ふにっとしてて柔くて温かくて。まるで唇のような…ん、くちびる?
『しら…っふわぁ!?』
そろりと目を開けてビックリする。目の前に白布の顔、その距離に心臓がばくばくと鳴り出す。相手は白布だ、落ち着け私。
「先輩、かわいかったですよ。もしかして、キスされると思いました?」
『なっ、違っ、か、からかったのね!?』
「でこちゅーなのに真っ赤ですよ」
くっくっと喉の奥で笑う白布。今日一番に意地の悪い笑みだった。
「でもまぁ、俺の気持ちは伝わりました」
『伝わってない、受け取ってない!』
半ばヤケになって叫ぶと、白布の目がすぅっと細められる。まるで、カエルを狙うヘビみたいだ、と言ったら怒るだろうか。思わず固く目を瞑ると、頭に何かが載る。
「フッ、怯えなくても獲って喰いません。ただ、先輩のことを好きなのは変わりませんから。一応考えておいてくださいね。あと、あまり意識しなくて結構ですから」
押し黙る私に構わず、白布は頭をなでなで。そうして何事もなかったかのように部室を出ていった。
『なん、なのよ…』
壁に体重を預け、そのままずるずると滑り落ち、床にぺたんと座る。ダメだ、白布の言葉が頭から離れない。
瀬見のこと好きなんでしょとか、私のこと好きだとか、考えてくださいとか、そんなの。
『意識しちゃうに、決まってんじゃんか…』
先程の壁ドンとでこちゅーを思い出し、頬が火照る。間近で見た白布の顔は、不覚にも"イケメン"だと思ってしまうくらいにカッコよかった。
私は瀬見が好きだ。もう2年も、好き。
なのに白布は、一瞬で私の心を掻き乱した。
『もう何がなんだか、分かんないや…』
ぼーっと宙を見詰め、思う。瀬見のことはずっと好き。でも今、頭を過るのはどうしても白布のことばかり。
『あーっダメダメ!よし、頑張れ、私っ!』
ほっぺをペチッと叩き、気合いを入れる。すっくと立ち上がり、頭をぶんぶんと振る。色恋は後、今は、部活だ。
『しまった、洗濯物っ!』
乾燥機にかけっぱなしのタオルやビブスの存在を想いだし、それから鬼監督も思い出す。ふたたび身の危険を感じた私は、業務をこなすべく、部室を飛び出した。