Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第32章 ★男前な彼《岩泉 一》
張っていた気が緩んだのか、ふにゃふにゃと床にへたりこむ。溢れたビールで足が濡れるとか、割れたジョッキの欠片で怪我するかもとか関係なかった。
『こわ、かったぁ…』
ふぅっとため息を吐いて、胸に手を当てて深呼吸。ふっと影が落ちてきたので見上げようとすると、何かにふわりと包まれた。
「ばっかやろぅ!何してんだよっ!」
『岩泉…』
ぎゅっと力を込めて抱きしめるのは、岩泉で。あんな風に怒るのを見たのは初めてで、こんな風に心配されるのも初めてで。
「だから早く俺を呼べって言ったんだよ」
『反省、してます…』
しゅんと萎れると、岩泉は一旦体を離した。それから頭を優しく撫でる。
「でも、蒼井が無事で本当によかった」
『いわ、い、ずみ…』
私の目に映るのは、嬉しそうに笑う岩泉で。もう、涙腺がもたなかった。
『いわっいず、っく、こわ、かったぁ。きも、ちわるっくて、こわっ、くてっ』
「あぁ、怖かったな。俺、蒼井が触られてんの見たときぶっ殺してやろうかと思った」
『岩泉っ、ぎゅって、して?アイツの、のこってて、きもち、わるっから』
「おう。いくらでもやってやるよ」
岩泉にしがみつく私を、ぎゅうぅっと抱きしめてくれた。それに応えるように、私も背中に手を回した。誰かにすがり付いてないとあの感触を思い出しそうで、怖かった。
そんなやり取りを他のお客さんが見ていることに気付き、少し恥ずかしい。でも誰も声を掛けたりはしなかった。
「海宙ちゃん、大丈夫かい!?」
カウンターから出てきたのはおじさん。泣いてて話せない私に代わり、岩泉が事の顛末を話してくれた。
「蒼井が客に触られたんです。蒼井怖がってるんで、今日はもう上がっていいすか?」
切に訴える岩泉に、おじさんは快くOKしてくれた。それから荷物を持ってすぐに店を出た。岩泉の繋いでくれた手が、すごく、安心できて、温かくて、嬉しかった。