Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第32章 ★男前な彼《岩泉 一》
そんなこんなで日々は過ぎ、気付けば夏が近付いていた。岩泉と一緒にバイトを始めて数ヶ月、なかなかに息も合ってきた。
そして、とある事件が起こったのは、夏休み間近の金曜日の夜だった。明日は休みだから少しくらい、といつもより遅くまでバイトを入れたのが間違いだった。
『あ、いらっしゃいませー』
カラカラという音に振り向けば、男性会社員が3人。そのうちの1人にどこかで見た記憶があると思ったら、前に絡んできた人だった。
「あ、お姉さん、また会ったね~!」
ヒラヒラと手を振ってくるソイツ…その人は、既に出来上がっているよう。
『また来てくれたんですねー、嬉し。それではお席へご案内しまーす』
嬉し、とは言いつつも全くの棒読み。苛立ちを表面に出さないようにしながら、席へ押し込み、岩泉とバトンタッチ。
それからというもの、ソイツはしょっちゅう話し掛けてきた。
「俺さ、ヤマモトっていうんだ」
『ごめんなさいバイト中ですから』
「じゃ、メアド教えて?」
『すいません、仕事してるんで』
しつこくしつこく話し掛ける自称ヤマモト。顔面を蹴り飛ばしたい衝動を堪えながら接客を行う。別のお客さんに呼ばれて注文を受けに行くと、何かの気配を感じてぞくりと背筋が粟立つ。振り向けば、ヤマモトがこっちを凝視していた。
なんなのよあんた。ニヤニヤと薄ら笑いまで浮かべて、気持ち悪いったらありゃしない。
ヤマモトと一緒に来た人がビールの追加をオーダーしたので、おじさんから受け取る。
「蒼井、俺が代わるか?」
『だーいじょうぶ、ビール2杯届けて戻ってくるだけなんだから』
真剣な顔の岩泉。シワの寄った眉間をつんっと突っついて、笑った。
『なんかあったら助けてよ。ね?』
「おう…」
若干不服そうな岩泉。溢さないように気を付けながらビールを運ぶ。この時代わってもらえばよかったと後悔するのは、すぐだった。