Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第1章 マイヒーロー《日向 翔陽》
体育館で見掛けたときは気付かなかった。私よりも、少し小さいその背中。その背中が今は、とても大きく感じる。
「謝ってただろ、許してあげろよ」
決して大きくは無い、でもハッキリと言い切るような声は、よく通った。
リーダー格の男子は、尚も私と前に立つ彼を高圧的に見下ろしてくる。怖くなって足がすくんで、彼の学ランの裾を、ぎゅっと握った。
やがて、リーダー格の男子はチッと舌打ちをすると、手下の二人を引き連れて、どこかへ去っていった。覚えておけよ、とお決まりのセリフを吐いて。
ホッとして気が弛んだのか、私はへたりと床に座り込んでしまった。
助けてくれた彼が、私に目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「おい、だっ大丈夫か?」
その時、初めて彼を真正面から顔を見た。
人懐っこそうな顔、心配そうに下がった眉毛、ピョンと元気に跳ねたオレンジの髪。
キュッと目尻の上がったくりんとした瞳で覗き込まれた時、一瞬で心を惹き込まれた。
「…おーい、だいじょーぶー!?」
彼に顔の前で手を振られてハッとした。
『えっ、は、すっすいません!』
ぺこっと頭を下げると、彼はブハッと吹き出した。
「いいよ。ほら、立って?」
彼に手を差し出される。私は手を伸ばそうとして一瞬だけためらった。その躊躇を見抜いたように彼は私の手をぐいっと引っ張った。
『あの、ありがとう。えっと…』
「1年1組、日向翔陽!」
『1年3組の蒼井海宙、です。日向君、助けてくれて、どうもありがとう』
あれ、日向君って小さい…?
目の前に立つ日向君の身長は、私より3㎝程小さかった。目線がちょっと下がる。
そんなことを思っていると、授業の始まりを告げるベルが鳴った。しまった、遅刻だ。
『ごめん日向君。私のせいで遅刻に…』
「いいよ!困ってるやつは助けなきゃ!」
そう言って日向君は太陽みたいに笑った。
その時、私は思ったんだ。
日向君は、私のヒーローだ…って。