Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第3章 高嶺の花だとしても《岩泉 一》
あれは、とある日の授業中だった。インハイで白鳥沢に負けたものの、春高まで残ることを決めた俺たち3年。他の部のやつらが引退するのを見ながら、練習に励んでいた。
2クラス合同の体育で、授業間の休み時間。水道に水を飲みに行った時だ。今年の梅雨は、ぐだぐだと長引く。今日は珍しく晴れて、夏日なるようだ。俺は水を頭っからかぶり、一時の涼しさを味わう。
その時、ふと歩いてくる女子生徒の声を聞いてしまった。
「まーだ及川君のことフッてるの?」
『なかなか懲りないみたいで…』
「くぅー、モテる女は大変だね!」
きゃっきゃと笑うのは、蒼井と2人の女子生徒。とっさに壁の裏に隠れ、聞き耳をたてる。
「好きな人作ればいいのに。彼氏はいいぞー。女子力も上がるし」
そう言うのは既に彼氏がいるらしい友人。
「べつに及川君じゃなくてもいいんだよ。バレー部はイケメン多いし。なんなら後輩でも。あ、矢巾君とかは?」
うちの部って、イケメン多かったのか…
確かに矢巾はモテる。及川は言わずもがな、花巻もなにかと女子には人気がある。国見もモテると金田一が言っていた。かく言う俺も、告白されることはままある。
蒼井はなんて返すんだ?そう思った時だった。俺の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。
『バレー部の中から選ぶんだったら岩泉君が一番かな。カッコいいし、頼れるし』
ああいうのが好みなんだ、なんて言葉が聞こえてきたが、そんなのはどうでもいい。
アイツは、今なんて言った?
俺が、一番だと?
バレー部の中で?
及川よりも?
そんなバカな、と思う反面、嬉しくて顔がニヤけそうになる。
これは、期待しても良いのか?
脈があると思っても良いのか?
そう思うには、充分すぎる出来事だった。