Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第3章 高嶺の花だとしても《岩泉 一》
きっかけ、なんてものはない。ただの一目惚れだ。蒼井がバレー部のマネージャーになったのは、2年の初め頃。なんでも、高校にも慣れ、新しいことをしてみたくなったとか。
"初めまして、蒼井海宙です"
鈴が鳴るような、かわいらしい声。ぺこりとお辞儀をすれば、絹のような髪がサラリと揺れた。
一目で恋に落ちた。
めでたくマネージャーになったわけだが、それからは及川の告白の嵐だ。
"ねぇ、カワイイね!俺と付き合わない?"
"ごめんなさい。顔だけの人はちょっと…"
初日の、しかも一言目の会話でこれだから笑える。俺も花巻も松川も、腹を抱えて爆笑した。及川は灰になっているし、当の蒼井本人は、キョトンとしている。
あの及川が女子にフラれた。加えて顔だけの人とまで。笑わない要素がどこにある。
フラれ続ける及川を見るから、好きな野郎がいないんだと喜べる。その一方で、俺が告白してもああなるんだろうと、諦めていたりもする。
こうも矛盾しているのも、珍しい。
告白しよう
今は違う
でも、いつか
いつか告白しよう
いつか、いつか、いつか、いつか
いつか、って、いつだよ?
告白するのを決めたのは、3年になってから。新しい後輩も入り、最後のインハイということで部活が忙しかった。でもそれを言い訳にして、告白を先延ばしにする自分がいた。
断られたらどうしよう
フラれたらどうしよう
告白のことを考えれば、うじうじと、そんなことばかりが頭を巡る。
結局は叶わない恋だったんだ。蒼井は俺には高嶺の花だったんだ。庶民の俺はお姫様には手が届かない。
そう思っていたのに。
聞いてしまった。
蒼井の声を。