Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第12章 過去にサヨナラ《赤葦 京治》
あぁ、もう。と京治は呟いた。そして、気が付いたときには京治の腕の中にすっぽりと収まっていた。ワイシャツの向こうから届く、彼の鼓動。トクトクと、心地好い。
「お嬢様、いえ、海宙」
滅多に呼ばれない自分の名前に、びくりと肩が震えた。ああ、貴方の口から零れると、こんなにも嬉しいなんて。
「わた…俺も、ずっと想ってました。ずっと好いていました」
京治の口から語られた事実に、衝撃を受ける。いつもの一人称じゃなくて、"俺"になってる。それはつまり、赤葦京治本人の感情ということ。私の執事として、では無く。そして京治が、私を好きだった?
『京治…?』
「執事と主という関係上、ずっと隠していました。気付かないフリをしていました。それが正しいと思っていた、いえ。そうでなくてはいけないと、心のどこかで思っていた」
『私も、同じよ。好きになっちゃいけないって、ずっと…我慢してたの』
京治の腕の中で、ぽつぽつとお互いの心境を語る。もう二度と訪れないであろう、この時を大切に。一瞬でさえもが、宝石のようで。
『京治、好き。好きだったよ…?』
好き、だった。
この想いは、無くさなくちゃいけない。
今日で全部、終わりにしなくちゃいけない。
「俺も、好きでした…」
吐息混じりのその声は、深く、低く、耳を通って体の中に落ちていく。
想いは伝えた。
想いは、通じた。
だから、今度こそ笑おう。
『京治』
「なんですか、海宙?」
『ありがとう…っ!』
「海宙…貴女は、どうして…っ!」
京治は片手で顔を覆った。もう片方の手に、私の両手を重ねる。
ああ、京治。
私の好きな人。
好きだった人。
今まで本当にありがとう。
知らないこと、たくさんのこと
教えてくれてありがとう。
甘くて苦い初恋を、ありがとう。
貴方と過ごした日々は、
どんなダイヤモンドの輝きにも敵わないわ。
それくらい、かけがえの無いもの。
そして私たちは、
最初で最後のキスをした――――