Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第12章 過去にサヨナラ《赤葦 京治》
自室に向かう途中、京治の足音が後ろから聞こえてくる。どちらも話すことは、無い。部屋の前で立ち止まり、思い切って訊いてみた。
『京治は、知っていたの?』
「…はい。お教えできず、申し訳ありません。ですが、旦那様より内密にしておけとのことでしたので…」
少し間を開けて、京治は言った。
「先程も申しましたが、12月、お嬢様の誕生日に披露宴を行います。私は木兎様の家には私はついていけません。なので、あとの3ヶ月、よろしくお願いします」
京治が頭を下げる気配を感じた。彼に背中を向けたまま、口を開いた。
『京治は………それで、良いの…?』
蚊の鳴くような、か細い声で訊ねる。
「………はい。それが、旦那様のご決断です。私が口を挟むことではありませんので」
どんな答えを求めていたのか、そんなのは分からない。けれど、京治の声を聞いた瞬間、何かが溢れそうになった。
それでも、答えるまでに空白があったことだけが救いだった。
そのお陰で、京治は私と別れたくないんだってこと、錯覚できたから。
『そう…止めては、くれないのね…』
誰に届くともなく、宙に消えた言の葉。
「お嬢様?」
『なんでもないわ。おやすみ、京治』
「おやすみなさいませ」
部屋に入ると、京治が一礼し、扉を閉めた。バタン、と音が響く。
強張った顔で、布団に走る。枕に顔を埋めたら、あとはもう、泣くだけだった。
『うぅっ、うえっ、えっく、っうぅ…』
止めどなく溢れる涙、漏れる嗚咽、むせ返りながらも、その哭き声は止まることがない。
もし、貴方が止めてくれたなら。
もし、少しでもそんな素振りを見せたなら。
私は喜んで、お父様に申し出たのに。
例えダメだとしても、頼んだのに。
あと3ヶ月なんて、短すぎる。
貴方に何も、伝えてないのに。
貴方にまだ、好きを伝えていないのに。
結局その日は、一晩中泣いた。泣いて、泣いて、体中の水分がなくなってしまうんじゃないかって位に泣いた。いっそ、枯れ果ててしまえれば、良かったのに。