第8章 桜の精
「人気者なのね」
申し訳ない気持になり、少し俯くと、ふわりと花の香りがした。
何の匂いだっただろうか。頬に手を当てられていた。
「貴方が落ち込む必要ないわ」
1つ年下の少女は自分と大差ないほど大人に見えた。
「でも、やっぱり少し足が痛い…きゃっ」
彼女が小さく悲鳴を上げるの初めて聞いた。
抱き上げたのだから驚いただけだろう。
彼女の赤い顔も、初めて見るものだった。
お姫様抱っこの状態で、出来るだけ目立たない廊下を選び保健室へ向かった。
保険医は驚いた顔をしたが、彼女を見ると、ベッドを指差した。
「常連なのか」
「まぁね」
ベッドに座らせ、擦り傷の出来た足をおしぼりで拭いてやった。
彼女は、されるがままにじっとしている。
土を全て拭きとると、何か所か傷が出来ていた。
保険医からばんそうこうを受け取り貼ってやると、ベッドに腰掛けた彼女が俺の髪に触れた。
また花の香りがする。
「ありがとう」
微笑むと花が綻んだ様で、やはり桜の精だと思った。
伸ばされた手を受け、手の甲にキスをすると花の香りの出どころが手首だったことに気付いた。
「国光くん」
顔を上げると織江が微笑んでいる。
「貴方って、王子様みたい」
顔に血が昇るのを感じて、下を向いた。
「そうか」と言うのが精一杯で、赤い顔を見られないよう必死に顔を背けた。