第6章 最強の彼女
激しいラリーの応酬に、わくわくしてしまう。
ああ、やっぱり運動部に入れば良かっただろうか。身体を動かすのは楽しいし、文藝部なら掛け持ちが出来る。
うーん、でも運動部入ったら応援とか行けなくなっちゃうかな。私もテニスしようかな。
リョーマパパと交代した時すでに夕方だったけど、そこからずっとラリーを眺めていた。
私は観る事に夢中で、リョーマくんもテニスに夢中だった。
好きな事に打ち込む人が好きだったんだなぁ、私。
にやにやするのを頬杖を付いてごまかしながら、リョーマくんとボールを目で追った。
日が落ちる頃やっと終わり、リョーマくんは汗だくで私に走り寄った。
「ごめん、遅くなった」
「ううん、すごく楽しかったよ」
「わりぃな、車で送るから、着替えておいで」
「あ、すみません近所なのに、ありがとうございます」
立ち上がりリョーマくんの部屋で着替えを済ませると、リョーマくんの香りが自分から香る気がした。
Tシャツを手渡すとリョーマくんがそれに顔を寄せた。
「わぁ、ちょっと、それ汗かいてるよ」
取り上げようとしたら抱きすくめられる。
「きゃ」
「夢子の匂いがする」
「…もう」
身体を離すとリョーマくんが私の毛先に指を絡ませた。
もう何度目かの、毛先に落とされるキス。
その仕草、本当に好き。
「オレ、夢子の顔も好きだけど、髪も好き」
「全部外側じゃん」
ふふっと笑うと今度は唇にキスが落ちる。
「どうして、言葉が好きなの?」
リョーマくんの突然の問いに顔を上げる。
真面目な表情。
あ、真面目な質問なんですね。
「えと、言葉は、生ものだから」
「ナマモノ?」
「そう、言葉って、思ったら口に出さないと、腐って使えなくなっちゃうの。」
リョーマくんが黙って頷く。
「だから『あの時、言えば良かった』みたいなの、嫌なの。ちゃんと言わないと、人とすれ違っちゃうでしょ」
「ふーん」
ふーんって。
「あんまり考えたことなかった」
「うん、リョーマくんって余計な事も口に出してそう」
むに
両頬がつままれる。
「あにふんのおう(何すんのよう)」
「ふっ、変なカオ」
「あ、ひおい〜こんあかあいいあおおにむあっえ(ひどい〜こんな可愛い彼女に向かって)」
「ふはっあははっよく見たら可愛いかも」