第5章 彼女
緊張しながらコートへ向かう。
公園は見晴らしが良く、テニスコートは下がったところにあるようだった。
駅からは眼鏡を外し、眼鏡ケースに入れたけれど、やはり人の視線が気になる。
久しぶりだな、この感じ。
ピクニック用のバスケットを手に、目的のテニスコートを探す。
キョロキョロしていると、長い髪を二つに編んだ、可愛らしい女の子が正面から駆けてきた。
あ、やばい、竜崎さん!制服じゃないから気付くのが遅れた。
隠れるところを探すけれど特にない。
どうしよう、視線を足元に落として顔を見ないようにする。
ああ、視線を感じる。
「桜乃!どこまで行ったのかと思ったよ!」
背中から聞き覚えのある声。
「ごめん、ともちゃん、トイレから出た方向が違ったみたい…」
方向音痴なのかな?私も人のことは言えないけれど、第3コートを探しています。
「あれ?こっちから来たってことは、コートの横通って来ちゃったんじゃない?」
小坂田さんの声が近付く。
あ、私眼鏡してないんだった。思わず顔を伏せたけど、必要なかったのか。
胸をなでおろし、歩き続けると目的のコートにたどり着く。
腕時計を確認すると、お昼には少し早い。
コートは下がったところにあり、階段になったベンチに私服の女の子達が腰を下ろし、きゃっきゃっとコートを指差していた。
女の子の少し後ろに座り、コートに目をやると、リョーマくんがストレッチをしていた。
もうすぐ出番かな。
前に座る女の子達の声が思いの外大きく、聞こえてきてしまう。
「ねぇねぇ、あいなは誰狙い?」
「えーっカナから言ってよぉ」.
甘い可愛らしい声。私の声は少し低いから、あんな風にきゃっきゃとは話せない。
「私、やっぱり手塚さんだなぁ〜」
残念、手塚先輩には彼女がいます。
「うーん、素敵だよねぇ!でも私は不二さんが良い!」
結構大きい声だな、リョーマくん達に聞こえそう…
リョーマくんが顔を上げた。
あ、目が合って…る?よね?
控えめに手をひらひら振ると、リョーマくんが、にっと笑った。
かっこいい。
気付くと嬌声が止まっていた。
が、それも束の間。
「「きゃーっ」」
「いま見た?見たよねぇ?」
「笑った!超かっこいい!」
「年下もありだよねぇ〜!」
残念ながらその人は私の彼氏です。