第4章 続・恋人
今日はなんとなく手を繋がないまま歩き出し、私は悶々としていた。
リョーマくん側の手をあけているけれど、なんとなく言えない。
少しのなんとなくが積み重なり、手を繋ぎたいなんて言えないまま時間が経つ。
リョーマくんは今日の部活の話をしている。
「だいたい、桃先輩容赦なさ過ぎだよなー」
「リョーマくんがよそ見してるからだよ」
ラリーの途中で私と目が合ったリョーマくんは、そのまま私を見つめて点を決められ、とても悔しそうにしていた。
「夢子が、あんな顔で見てたら、よそ見もするよ…」
少し先を歩いていたリョーマくんが、振り返って右手を差し出す。
ホッとして手を握ると、リョーマくんが少し赤くなった。
「私、どんな顔してた?」
リョーマくんが手を引き寄せる。身体が近付く。
「すっげーかわいい顔」
至近距離で見つめられ、胸がきゅ、となる。私ばかりときめいているみたいで悔しい。
そのまま乗り出し、ちゅ、とキスをした。
「なっ…」
身体を離し、にこりと笑って見せた。
「な?」
「いきなりすぎ…」
顔を隠すように額を手で抑えるリョーマくんの顔は、真っ赤だった。
「だって、私ばっかりドキドキしてる気がして、なんか悔しいんだもん」
手を握ったまま歩く。
明日も会えるのに、今日それぞれの家に帰るのがひどく寂しかった。
「今日」
「ん?」
「今日、オレと桃先輩のラリー見てる時、何考えてたの?」
まだ顔を抑えたままリョーマくんは歩く。
ラケットバッグって、大きいな。
「負けないでって、思いながら見てた」
「練習なのに」
「うん、でも、すごくかっこよかった」
自分で聞いたくせに、照れているようでリョーマくんはなかなか顔を見せてくれない。
「公園、寄ってく?」
「うん」
もう時間は遅く、公園には誰も居なかった。
ベンチに座り、コンビニで買った肉まんとあんまんを、それぞれ半分に分けて食べた。
空を見上げると星が綺麗で、冬の気配がした。
手の平を上に向け、まっすぐ伸ばすと星を掴み取れそうだった。
「星、取りたいの?」
私の仕草を見てリョーマくんが首を傾げる。
その仕草、反則。かっこいい。
「星を見ると、手を伸ばしたくならない?」
リョーマくんは視線を空に向け、私と同じように手を伸ばした。