第1章 クラスメイト
私のクラスには王子様がいる。
名前は越前リョーマ。
テニス部のルーキー。
青春学園のテニス部は強豪と有名で、レギュラー陣はアイドルみたいに人気がある。
他校の女の子が試合を観に来るくらい。
彼はその中の1人。
小柄だけど、つり目で無口な様子の越前くんは他の男子より大人っぽく見えた。去年までランドセルを背負っていた私と同い年には見えなかった。
友達に聞いたら、アメリカにいたそうで、どのみちランドセルは背負っていなかったらしい。
窓際の席で眠た気に外を眺める王子様の横顔は、かっこいいというより綺麗だ。二つ隣の席。今日は隣の席が休みだから、横を向くと王子様が見える。
ぼうっと見ていると顔を上げた王子様と目が合った。
一つ飛ばして隣にいるので真横を向いていたわけだけど、まさかこちらを向くとは思っていなかったので目を逸らせずに見つめ合ってしまった。
ああ、見てる。すごく見てる。
きょとんとした表情で、大きな瞳をぱちぱちさせている。
彼は口ぱくでこちらに聞いてきた。
『なに?』
慌てた私は手の中で回していたシャープペンシルを取り落としてしまった。
カラーン!
静かな教室に金属音が響く。
顔に熱が集まるのを感じる。
先生が私のシャープペンシルを拾い、教科書を読みながら近付く。
「授業中に落とさない様に練習しとけよ」
ペン回しを指摘され、教室が少し湧く。
でも今はそんなことはどうでもいい。
ばくばくと心臓が鳴る。
蚊の鳴くような声で
「すみません」
と言うと、そのまま授業は再開した。
恐る恐る王子様の顔を見ると、こちらを見たまま少し意地悪そうな顔で微笑んで
『まだまだだね』
と口を動かした。
そして手を顔の前まで持ってきて、くるん、と綺麗にペンを回した。
私は、これが恋に落ちるということだと、生まれて初めて知った。