第12章 それでも彼女
「でも、私、リョーマくんのこと譲る気ないし、私の方が、たぶんリョーマくんの事好きだよ?」
リョーマくんの顔を覗き込むと、不機嫌だった顔は真っ赤に染まり、私の好きな、少し意地悪そうなの微笑みに変わる。
「まぁ、それなら良いケドね」
クス、と小さく笑われて、私も少し恥ずかしくなる。不二先輩はいつも穏やかですごいなぁ。
「そうだ、夜野さんって本当にモデルさんなの?」
「ああ、さっきのですね、前に少しだけです。母がモデルだったので、そのお手伝い的な感じで」
「そうなんだ、この前も写真、慣れてる感じがしたからさ」
「あはは…」
載った雑誌も、もうどこかにいってしまったし、ジュニアモデルなんて数が多すぎるから誰も私を覚えていない。
写真は嫌いじゃなかったけど、顔の美醜に無頓着だった私はたぶん人のコンプレックスをさんざん煽ってしまったと思う。
大きくてはっきりした瞳も、リップクリームもいらない薄いピンクの小さな唇も、自覚した時には嫌いだった。
怖い目に遭ったときも、どうして私ばかりと苛ついた。
鏡の中の私はいつも少し不満気で、表面だけで他人に興味を持たれることがひどく億劫だった。
「もしかしたら」
「うん?」
リョーマくんが振り返る。
少しつり目で、黒目がちの大きな瞳。
「もしかしたら、あの子の方がリョーマくんのことを好きだったとしても」
リョーマくんが再度眉をひそめる。
「それでも、私が彼女だもん」
笑ってみせるとリョーマくんが私を見つめたまま少し驚いた表情になった。
リョーマくんの瞳に映る自分を確かめるように近付くと、その姿が少し揺れた。
私だけが映るこの瞳が、大好き。
に、と笑うとリョーマくんが赤くなった。