第9章 手塚先輩と桜の精
「いや、あのぉ、えと」
先頭の女の子のクラス章がちらりと見えた。3年生だ。
歳下のはずの織江先輩は黙っている。
もう一度先輩が「何か…?」というと、意を決したように先頭の女の子が口を開く。
「あの、手塚くんと、別れてくれない?皆、貴女が手塚くんを惑わせたって言ってるよ」
はぁ?何言ってるんだろう、この人。
二つに結んだ肩までの髪はぴょんと跳ねて、顔も可愛らしいのに、言っていることの道理が通っていない。
「そんなの、国光に言ったら良いんじゃない?惑わされてますよ、あの女は悪魔です別れてくださいって」
半身になったので先輩表情が半分見える。
完全にゴミを見る目で相手を見据えている。
織江先輩の迫力にたじろぐ先輩達。
「あと、私部活中だから、まだ用があるなら終わってからにシテクダサイ」
明らかに3人に興味を失った織江先輩はそのまま扉をターン!と閉めた。
私はただ眺める。
「たまに来るのよね、ああいう頭のおかしい人」
先輩はため息を吐いて続ける。
「文句があるなら1人で来たらいいのに。だいたい皆って誰?あの3人?悔しかったら直接国光に告白すれば良いのにね」
『群れていないといられない人に負けてられない』
桃子先輩の言葉が重なった。
数で来たら勝てると思うんだろうか。
桜の精に。