第35章 break away
「もう一回、最後に抱かせてよ?」
「何言ってるんですか…本当にもう…。」
呆れたように微笑むあやめ。
「あはは。冗談冗談。」
最後にキミの笑顔を見られて良かった。
「俺は、もう少し飲んでいくよ。」
「じゃあ、私は先に失礼しますね。」
「ここは、俺の奢り。今までのお礼だよ。」
「ありがとう。ご馳走さま。」
イスから滑り降り、出口へ向かう。
全然振り向かねーのな?
俺は、こんなに見てるのに…。
俺は…立ち止まったまま。
大きくため息を付いて、あやめがもういないであろう出口へ目を向ける。
こちらを向いて、手を振るあやめ。
暗い照明でも分かっちゃうんだよな。
見えないはずの笑顔。
「ありがとう。」
そう呟いて、俺も手を振った。