第35章 break away
「あのさ。」
両腕を胸の前で組む。
体は正面を向けたまま。
覚悟を決めて、口を開く…。
「もう俺の出番は終わったと思うんだ。」
「あやめには、支えてくれる人がいるみたいだし。」
「俺なんて、あやめの事全然分かってないしな。」
小さな背もたれに少し寄りかかり、軽く伸びをする。
「それに、俺にはアイツみたいな行動力は無い。」
「色んな事を同時に出来るほど器用じゃないし。」
少し俯き、チラッとあやめに視線を移す。
「俺も、そろそろ本命だけを見ていこう。なんて。」
軽く微笑んでみる。
虚勢だけど…
バレてないかな?
チラッと視線で覗えば、あやめは柔らかい笑みを見せてくれた。
「そっか。」
「うん。かなり難しい恋だから。」
「とりあえず、カノジョだけを見つめて過ごすことにする。」
「多分…このまま言えずに終わると思うけど。」
言うことは無い。
この気持ち。
『俺はキミが好きだよ。』
絶対に言わないよ。
だって、この気持ちはキミを絶対に苦しめるから。
最後に聞かせてよ。
「なぁ?あやめは…自由を好きなの?」
片眉を微かに上げて、覗う。
少し驚いた表情を見せながら、俺を見つめるあやめ。
「あ。やっぱり言わなくていーや。」
まだキミが他の誰かを好きなんて言葉聞くいて平常心でいられるほど大人じゃなかった…。
ハハッと笑って、残り少ないビールを飲み干す。
『キミを好き』と言う言葉と共に。
「まぁ、頑張りすぎない程度に頑張れよ。」
「今までありがとう。」
「私こそ…ありがとう。」
「悠一がいたから、ここまで来られた。」
「苦しい時に傍にいてくれてありがとう。」