第35章 break away
「未練有り有り?」
バーテンダーの友人がニヤニヤしながらこちらを覗う。
「まーね。」
「可愛いコだね?」
「うん。モテモテなんだよ。」
「だろうね。」
「結構良い位置にいたと思ってたんだけど、あっさり抜かれたよ。」
「若いって怖いよね。」
「俺にはあんな行動出来ない。」
「やっぱり立場とか今後とか考えちゃうんだよな。」
スッと出されたカクテル。
「ん?」
「『カカオフィズ』」
「俺の奢りだよ。」
グラスの縁を指でなぞる。
「『カカオフィズ』…このカクテルの意味は?」
「『恋する胸の痛み』」
「あははは。ありがとう。」
「芸の肥やしにしなよ?」
「あぁ。そうする。」
口に含むと爽やかな香りが鼻を抜けた。
甘酸っぱい味に口元をキュッと締めた。