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恋ぞつもりて(裏)~声優さんと一緒~

第4章 reading


酔いが回り、フラフラしていたあやめを見つけた。

「後輩なので、責任もって送ります。」

そう言って、タクシーに乗せる。


陽気に一人で話し続けるあやめの声に耳を傾けながら、頬杖を付きながら様子を覗う。


少し眠くなってきたのか、俺の左肩にもたれてきた。

触れている箇所に全神経が集中している。


我ながら、笑える。

こんなに意識してたのか?

同じ事務所に所属する沢山いる後輩の一人。

まぁ…現場で一緒になれば、多少嬉しくはあった。

でも、それは『恋愛』では無い。

ただの後輩。

そんなもの。


今回の朗読劇。
3ヶ月の間に稽古したりと一緒にいる時間が必然的に増えていた。

顔を見れば、自然と笑みが溢れる。

気がつけば、いつも視線の先にはあやめがいた。

………おいおい…嘘だろ(笑)

そんな自分が笑える。



二人で行った演奏陣の稽古場。

筝を奏でるあやめに目も耳も奪われた。


手の甲に見つけた一筋の赤い線に血の気が引いた。


心臓がドクンドクンと音をたてる。


一瞬にして、周りなんて何も見えなくなった。



千秋楽を終え、蒼井と涙ぐむ姿を見て直視出来なかった。

見たら抱き締めてしまいそうだから…。



打ち上げで見かけたあやめは、明らかに酔っていて…

普段見せない姿を見せる。



「えー。何言ってるんですかぁ?」

「全然問題ないです~。」



「えへへ。何か楽しくって。」

「それに酔ってないです~。」

不意に顔を覗き込まれて、咄嗟に窓の外へと視線を外す。


「もう!無視しないで下さいよ。」

触れていたモノが肩から離れ、急に物足りなさを感じる。


チラッと左へと視線をずらす。

大きくため息を付きながら、左の窓から外を眺める姿を捉える。

そして、小さくこう言った。


「どうして私のこと見てくれないんだろう…」


消え入りそうな小さな小さなひとり言。

大きなため息が一瞬窓を曇らせた。



瞼を閉じながら、フッと口角が上がる。

自嘲気味に笑う姿に俺は少し胸がざわめく。


多分、別の誰かの事を考えてる…。

表情、仕草で何となく分かる。

だって、俺はキミを見ていたから……。

あやめの想いの先にいるのは、誰なんだろう。

俺でない事は、確かだけどね。

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