第9章 憂鬱な雨
暖かい紅茶を手に、本をパラパラとめくった。
しかし、その時いきなり視界が真っ暗になった。
「だぁ〜れだっ♪」
…!!
「と、トド松…くん?」
ト「うん!せいかいだよ〜♪」
そう言って彼はパッと手を離し、相席へと座った。
「どうしたの?お祭り、行かなくちゃダメなんじゃ?」
ト「う〜ん…でも、〇〇ちゃんといた方が楽しいかなぁ?」
わたしの唇に人差し指をおいて、ウインクを決めていた。
彼からハートがふわふわと浮かび出しているような気がした。
……トド松くんは、女の子をおとすのが得意な理由がわかったような気がした。
わたしもこんな風にキャピキャピできたら、
もっと可愛くなれたのかなぁ…
「トド松くんは…今まで手に入らなかったものってある?」
きっと、末っ子の特権やその魅力で手に入れられなかったものなどないんだろうなぁ…
そう思い込んでいた…
ト「…あるよ。」
「!!意外……どんなものだったの?」
ト「えぇ〜?それ聞いちゃう〜?」
わたしは首をブンブンとたてにふった。
ト「…兄さんたちに取られてばっかなんだぁ…。
てんで、僕には手の届かないようなもの。」
憂を帯びた顔がそこにあった。
雨がザァザァとうるさく響く。
トド松くんは話をやめなかった。
ト「なんかね、ずーっと昔から今でも欲しいって思ってるんだけど……でも、僕じゃぁ傷つけちゃいそうで、
扱うのが怖い。」
「そうなんだ…トド松くんは優しいんだね」
ト「っっ!!!」
トド松くんはガタッといきなり立ち上がり、そして
顔を腕で隠していた。
「どうしたの?」
わたしは彼の顔をうかがった。
熱でも出てたら大変…
彼のおでこに手のひらをくっつけようとした、その時。
ちゅっと、唇を塞がれた。