第6章 濡れないように
パラパラと傘の表面に雨粒が当たる音と、私達が歩く靴の音。
雨の日は音に意識が行くもので、心地良く感じる。
そんな時、ふと隣を見ると、駆の右肩から右足にかけて雨が伝い、それこそシャワーを浴びているような状態になっていた。
「?!す、すごい濡れてるじゃん!!」
「え?あぁ、平気平気」
今更気づいたけど、駆は傘を持つ手をだいぶこちら側に傾けていて、私が濡れないようにしてくれていた。
慌ててその手を駆側に押すと、それよりも強い力で戻されてしまった。
…私がもう少し寄ればいいのかな?
そう思い、サッと駆に近づく。
駆は一瞬目を見開いたけど、手の傾きを少し和らげた。
でも、まだ駆は濡れている…。
どうしたものか…。
いや、いやいや、わかってるんだ。
これはどんなに頑張って駆に近づいたって、駆はきっと濡れ続ける。
この傘、折りたたみ式だからか知らないけど、通常の傘よりだいぶ面積が狭い。
方が触れるくらいの位置にいても、駆の肩には容赦なく雨が降り注いでいる。
「駆、もっと自分側に傘傾けなよ」
「うん」
「…位置変わってない」
「うん」
「濡れちゃうってば!」
「でも伊織が濡れるし」
「私はいいの!」
「俺が良くない」
「いいってば!!」
「良くないの」
グイグイと駆の手を押すけど、それを真顔で返される。
…くっ!
思ったより力強い
「〜〜!」
「…はぁ」
カチンと来て、このまま走って帰ってやろうかと思った。
でもそれは駆のため息によって止められた。