第1章 消えない過去、消せない過去
「…へへっ、やるじゃねぇか。でももうこれで貴様もお終いだ。」
最後に残った男は懐から銃を出し、銃口を私に向けた。
「ここじゃあオメェさんの人気は相当なもんだったのに勿体無いねぇ。コイツでぶち抜く前に俺も一回くらい味わいたかったもんだ。」
「笑っちゃう。アンタみたいな男とセックスしたって不快しか無いわよ。」
「〜〜っ!!言わせておけば!!!死ねェェェ!!」
男が引き金を引いた瞬間私は即座に動いたが、避け切る事は出来ず銃弾が私の左肩を貫いた。
私は左肩の痛みを堪え男に刀を振り下ろした。
あまりにも呆気なく、男はその場に膝から倒れ落ちた。
「……うっ…痛いっちゅうの…笑えないって……。」
私は刀をその場に投げ、右手で左肩を抑えた。そしてそのまま部屋を出る。
ちなみに刀は私のではない、誰のかも分からない拾ってきた物。
護身用にと思い、常に隠し持っていた物。
再び部屋へと近付く足音が聞こえ、このまま戦うのは不可能だと思い何とか必死に痛みを我慢し続けながら逃げた。
「なっ何事だ!何だこれは!ここの部屋の女は誰だ!!」
「依桜だ!!何処に行った!?探せ!!」
ボロボロの小さな家から聞こえてくる見張り人達の怒鳴り声。
そして私の名を呼んでいる。
「…やめてよ、その名前はもう捨てたいの。」
そして私は見つからない為になるべく遠くまで走った。
走れば走るほど傷口は開き、着物が私の血で染まっていく。
「ハァハァ……どうせ、逃げ出した所で行く宛なんて無いのにね、馬鹿だ私は。」
一瞬蘇った感情のせいで宿を無くした私は何処に向かえばいいか分からず立ち止まりその場に座り込む。
きっとこのままだと私は死ぬ。
だがあんな所に居ても死人も同然。
あそこで死のうが何処で死のうが私には関係の無い事だった。
私は遠くなる意識の中そんな事をずっと考えていた。
「最悪な人生をありがとう、神様…。」
そんな馬鹿げた事を言って私はとうとう意識を手放した。
最後に私が見た空は、朝日が登ろうとしている穏やかな空だった。