第2章 平和の都へ
…何もない時空の狭間。
白く光り輝く雲の中。
そこには一頭の白い麒麟が立っていた。
〈―――〉
何を言うでもなく、白い麒麟…白麒麟は下界を眺めていた。
〈―――……白麒麟……〉
〈……?〉
ふいに重みのある声で名を呼ばれ、白麒麟は面を向ける。
大きな体躯をした白い龍が浮かんでいた。
〈白麒麟よ…〉
〈龍神……。どうかしたのですか?〉
〈黒龍の陰の気はどうだ?〉
〈……えぇ、時間をかけたおかげで、全て癒えました。それが何か?〉
豊葦原でのことを話し終え、人間も悪くないと伝えてからは、この龍神―白龍―には逢ってなかった。
下界を見ながら癒やしていた白麒麟と違い、その話を聞いてからは白龍は何かをしていたようだが、何をしていたかは知らない。
久しぶりに逢えば、いつもと少し様子の違う白龍に疑問が浮かんだ。
(……なんでしょうか?)
白龍が何か言わないかと待っていると、ようやく口を開いた。
〈白麒麟。お前に見てきてほしい時空がある〉
〈?…どこですか?〉
これはまた珍しい…、と白麒麟は思いながら問う。
〈………異世界の京が栄えている時空……。平安時代に似た時空だ〉
〈平安京ですか。いいですね。しかし、なぜその時空に?〉
〈歪みが生じているのだ…〉
〈歪み?たしか、俺の知っている平安時代なら、怨霊や妖怪が跋扈していましたが……。それだけなら、あなたは呼ばないでしょう〉
一瞬、白龍が金色の瞳を細める。
〈新しい神子が数年後に選ばれる……〉
〈なっ!?〉
白麒麟は信じられないように、目を見開く。
白龍へと近づき、真意を聞こうと若干声が上がる。
〈なぜですっ!?龍神の神子は、千尋で終わりのはずでは…!〉
〈……………白麒麟よ。お前が気づかなかっただけで、すでに千尋のあとに何人か龍神の神子に選ばれているのだ〉
〈………っ……やはり…………〉
少し悲しげに金色の瞳を揺らす白麒麟。
〈――その時空の歪みを生み出しているのは、鬼の一族と呼ばれる者達だ〉
〈…鬼の一族?〉
なんだ、それは…。と白麒麟は首を傾ける。
遠くで一つ何かが鳴った気がした。
〈詳しくはその時空の、星の一族に逢えばわかる〉
―――星の一族……
〈……柊と同じですね…〉