第7章 更木の剣八
_______________10年後
ある日の北の80地区『更木』。
ろくでなしか蔓延るこの街を一人の男が歩いていた。
「ったく…久々に戻ってみればこれだ……どっかに張り合いのある奴はいねぇのか?!」
普段は我が物顔で街を闊歩する荒くれ者たちが無残な様子で地に伏す傍らで、さながら獣のような荒々しい霊圧を放つこの男は更木剣八。
「何言ってんのー!?剣ちゃんに勝てる人なんて、そうそう居っこないよ!」
剣八の頭上からぴょこっと飛び出した桃色の髪の少女がそう言うと、剣八は変わらず不機嫌そうに言った。
「俺はよぉ…もっと血が滾るような戦いがしてぇんだよ!こんな奴らじゃ、錆落としにもなりゃしねぇ」
そんなやり取りをする彼らがこの辺りに来る少し前、二人の少女が同じ場所を歩いていた。
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「ねぇねぇ、ほんとにどこ行くの?!」
『蘭ったら…そんなに知りたいの?』
「もちろん!」
私の周りをくるくる周りながら不思議そうな顔をしていた蘭の顔がパッと明るくなる。
喜助さんが兄の死を伝えに来たあの頃から約10年の時が過ぎた。
兄の死を伝え聞いた当初は精神的にもかなり荒れたが、いろんな人の支えのおかげでなんとか持ち直し、今では兄の事を思い出としてしまっておけるくらいにはなった。
この10年で私たちはずいぷん成長した。
もちろん、体だけでなく実力も。
変わったことはいろいろある。
まずは見た目。今の私は一般的に17、8歳くらいの歳に見えるだろう見た目に、昔は肩下くらいまでしかなかった髪も腰の辺りまで伸びた。
対して蘭は、14、5歳くらいの見た目に、深い藍色の髪を短いポニーテールにしていて、活発な印象を受ける。